新年を迎えるための行事やその由来
1年最後の月である12月には日本語で別名があります。その名も「師走(しわす)」。「(いつもは落ち着いている)師でさえ、年末には走り出すほど忙しい」という意味が込められています。日本人にとって1年において最重要イベントの正月を迎えるため、年末にはこなさなければならないルーティーンが数多くある一方、健やかな新年を祈願したり、無事に一年を過ごしたことに感謝するイベントなども数多くあります。(写真は餅つきの様子)
今回は日本人の年末に関する伝統行事ほか、近年の年末行事にまつわるトレンドをご紹介します。なお、1年最後の日、大みそかに関しては別に詳しくご紹介します。
目次
1. 忙しい!日本人の年末と近年の年末行事トレンド
2. お歳暮と年賀状の準備
3. 仕事納めと忘年会
4. 大掃除・かまどの掃除(火の神様)
5. お正月の飾りつけ
6. まとめ
1. 忙しい!日本人の年末と近年の年末行事トレンド
新年を迎える元日の挨拶は「あけましておめでとうございます」。豊穣の神様でもある年神様が1年の幸をもたらすことへの感謝を込めた言葉です。12月に入ると、元旦に年神様をつつがなく迎える準備をこなすため、日本人はとても忙しくなります。
そんな忙しさの中、現在の日本では宗教観は薄く、商業目的による影響が大きいものの、多くの人がクリスマスを楽しいイベントとして祝います。家庭でクリスマスツリーを飾ったり、いわゆるクリスマス・ケーキを買って友人や家族とパーティーを開いたりします。また、近年定着した年末の風景としてあげられるのが、大型の商業施設や主要駅周辺などでの華やかなイルミネーション。クリスマス後も年末まで飾られ、多くの人で賑わいを見せます。
2. お歳暮と年賀状の準備
日本がきめ細やかな「贈りものの文化」を持つことをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。年末には「お歳暮(おせいぼ)」と呼ばれるギフトを贈り合う風習があり、地方や送る相手との関係性にもよりますが、12月初旬からできれば20日、遅くとも31日までに送り先の手元に届くことが推奨されています。現在では多忙になる12月を避け、11月にお歳暮の準備を始め、月末に発送する人も増えていて、デパートでは毎年趣向を凝らしたギフトパッケージを紹介したり、お歳暮用ギフト本も用意して年末商戦を盛り上げます。
なお、お歳暮の一般的な予算は3,000円から5,000円とされていますが、値段だけでなく、相手の嗜好や趣味、家族構成などを事前にチェックした上で、相手に喜ばれるギフトを選ぶことが重要視されています。相手のことをどれだけ思いやっているかを図らずしも図られるのが日本の贈りもの文化とも言えます。ただし、近年、このような気を遣う風習を避ける企業などが増え、以前よりもお歳暮を送る人は減っているようです。
また、日本では日頃の感謝の意を表す「年賀状」を送り合う習慣があります。新年のお祝いの言葉とその年の干支や幸運を呼ぶモチーフのほか、人によっては家族写真などを盛り込んで近況を伝えたり、工夫を凝らします。その準備も年末の恒例行事の一つと言えるでしょう。また、お祝いの言葉を添えた年賀状を前年家族を亡くされた方にお送りするのはNG。そのため、年賀状を準備し始める12月初旬以前に、その年にご家族をなくした人は「喪中葉書」を作成し、「年賀状を受け取ることを遠慮します」というお知らせの葉書を出す風習もあります。
年賀状は、本来は新年の挨拶に行けない遠方の知人向けの書状でしたが、明治時代に郵便制度が整ったことで、遠方だけでなく、近しい人たちへも年賀状を送る習慣が定着しました。ただし、現在はメールやSNSの急激な普及により、年賀状を書かない日本人が急激に増えています。お歳暮同様、時代によって風習も変化していくのですね。
3. 仕事納めと忘年会
年末に向かって忙しさが加速する中、毎年12月28日あたりに1年の仕事の締めくくりとなる「仕事納め」を迎えます。日本の官公庁は法律に則り、12月29日から1月3日が休み。それに合わせて多くの一般企業も含め、「仕事納め」は12月28日(28日が土または日曜の場合、直前の金曜)となります。ただし、銀行はその業務内容上12月30日まで、証券取引所も同様に12月30日を年内最後の営業日として「大納会」と呼ばれています。「大納会」では、その年に話題となった人物が立会終了の鐘を鳴らす儀式を行います。海外では、休日は元日のみで、2日から仕事開始というケースがほとんど。日本でいう陰暦の旧正月にあたる「春節(しゅんせつ)」を祝う中国では、西暦(太陽暦)の1月 1日の正月はお祝いしません。
日本では12月に忘年会を行う風習があります。日本語の「忘年会(ぼうねんかい=としわすれ、1年を忘れる会)」には、1年の苦労を忘れ去り、新しい年を気持ちよく迎えるために催す会です。起源は室町時代、貴族が連歌を読み合い、酒を交わす宴を庶民が真似たすえに酒を飲んで乱舞する様が「としわすれ」と呼ばれている記録があります。年末の恒例行事として定着したのは明治時代、官僚にボーナスが支給されるようになり、懐が暖かくなった人々が職場仲間と宴会するようになったそうです。
1960年代以降、多くの企業が忘年会を主催し、飲食を伴うパーティーだけでなく、温泉旅行を兼ねた旅行を催行するなど、予算や規模まで大きくなっていきました。しかし、2000年以降には会社の忘年会に参加しない人も増えてきて、クリスマスパーティーと時期や意義が重複することもあり、家族や友達、気の置けない仲間とのプライベートな時間を大切にする人が増えるようになっています。 現在ではコロナ禍の影響を受け、「オンライン忘年会」をする人も出てきています。
4. 大掃除・かまどの掃除(火の神様)
年末の大掃除の由来は、平安時代まで遡ります。その起源は、神棚や仏壇の煤(すす)をきれいに落とし、ご先祖様や年神様を家に迎え入れる下準備である「煤払い(すすはらい)」。今でも年末に寺社では「煤払い」を執り行っています。お正月は、日本人にとって1年で最も大切な日であり、その日をつつがなく迎えるため、住まいの隅々まで掃除をして、身を清めることが重要でした。この気持ちが現在でも日本人には強くあり、年末には大掃除に精を出します。
また、ガスや電気のない古来の日本の台所には「竈(かまど)」がありました。かまどに薪をくべて火を起こし、加熱調理していました。暖かさを与えてくれるかまどの火はかけがえのないものですが、反面、火事を引き起こす原因として恐れました。そのため、古来から人々は火を神として崇め、かまどの神として敬い、大切にしました。年末には、多くの神社で竈の神様のお札を配布しています。念入りに台所の掃除を行い、きれいになったところで食べ物に困ることのないよう、また火事などの火の禍がないことを祈願して、お札を祀ります。(写真=1879年制作, 煤払い 図録 ラグーザ玉展 、東京新聞, 1986年より) 5. お正月の飾りつけ
大掃除が終了したら、お正月の飾りつけをします。日本では、お正月を迎えるために様々な飾り付けをしますが、そのうちの一つ、「門松」=写真=は、年神様が迷わず来られるようにと目印として玄関先などに設置します。現代ではマンションなどの集合住宅が増え、玄関扉に簡易型のリース風正月飾りを飾る家庭が多くなっています。玄関や神棚、床の間など、年神様をお迎えする神聖なところには、「しめ縄」を飾ります。門松と同様、年末から松の内(一般的には1月7日)まで飾っておきます。また、床の間や神棚に鏡餅を飾りますが、これは年神様が鏡餅に宿るとされるためです。
なお、お正月飾りに最も良いとされるのは12月28日頃。12月29日に飾るのは「苦立て(くだて、く=苦のダブルミーニング)」、大晦日の12月31日に飾るのは「一夜飾り(いちやかざり)」れと呼ばれ、年神様に対して失礼に当たるとして避けるべきとされています。様々ないわれのある正月飾りについては、別に詳しく紹介します。
6. まとめ
先ほど、正月飾りとして「鏡餅」を飾るとありましたが、12月中旬には親族や近所住民が集まり、「餅つき」をする風習があります。現在では時代の変化もあって盛んではなくなってしまいました。とはいえ、お餅はお正月に欠かせない食材です。年末は、お餅を含め、大晦日に食べる「年越しそば」やお正月の特別料理「おせち」の食材、またお正月期間中にお客様をお迎えする際のお酒などの買い出しでも忙しくなります。東京では魚市場があった築地の場外市場、上野御徒町のアメリカ横丁などが食材を買い求める買い物客でごった返します。多くの人が大きな荷物を持って買い物に勤しむ様子は、ニュースでも毎年報じられています。買い物が終われば、お正月に向けておせちなどの仕込みに入ります。
このように、日本人の年末は忙しさの中で過ぎて行きます。年末の行事やルーティーンひとつひとつに、古来から伝わる神々への信仰心や家族や友人の幸福、健康などの祈りがあります。時流とともにその形は変化しつつも、日本人の心の奥底には「生かされていること」に感謝する気持ちがあるのです。(写真は買い物客で賑わう年末の築地場外市場)
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